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2023年11月30日 (木)

言の葉の森から (2023,12)

 読書は、私のたましいの糧だ。

 通勤電車、自宅やスタバ、眠りにつくまでの寝床。同じ時期にそれぞれの場所に適した本を読んでいる。

 仕事がら、講話のテキストを読む時間とのせめぎ合いになる場合が多い。しかし糧は必要だからギリギリまで読んでいると、双方のテーマが深い所で繋がり合ったりするから“言の葉の森”への逍遥(しょうよう)は尽きない。

 今回は、自宅や寝床で読めそうな本を紹介したい。

 

 先ずは中村桂子著『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)。

 中村さんは『いのちの環』七月号にインタビューが掲載された生命誌研究者だ。

 かつて八〇年代、『VOICE(ボイス)』(PHP研究所)誌上で科学と文明を結ぶ切り口で彼女がコラムを連載して以来、私はファンになった。

 そんな中村さんが八十六歳を迎え、「『老いる』ということを生きることの一場面として捉え、年齢を重ねたがゆえに得られたこと」を綴った、というから見逃せない。

「暮らしやすい社会」を実現するためには、

「『人間は生きものであり、自然の一部』という考え方をすれば暮らし方を変え、二酸化炭素の排出を抑えることができる」と語る科学者の眼差しは、人間のみならず地球生命全体に及んでいる。

 

 次の本は養老孟司さん(八十五歳)と下重暁子さん(八十六歳)の対談『老いてはネコに従え』(宝島社新書)。

 共に八十路を越えたお二人は、齢を重ねるにしたがって視野は広がり、逞(たくま)しい着想は現代社会に鋭く切り込む。

 たとえば次の対話は次世代への老婆心がつのり、困難な時代を生き抜く智慧がほとばしる。

養老 このままいくと、アメリカの属国のお次は中国の属国になってしまうかもしれない。だからこそ『それぞれの地域の自立』が大事なんです。支配されたくなければ、地元で自給自足できる社会をつくることですよ。自分たちの周りでしっかりと食べていければ、ほかの国がいくらお金をだそうとも『関係ねえ』って話ですから」。

下重 うん、それこそ人口なんて少なくていいから、小さな独立国を目指す。地元で自給自足できるコミュニティがいっぱい出来るっていいんじゃないの」。

 戦中戦後を見つめてきた者のみが語り得る、美しく豊かに生きぬく智慧が満載だ。

 

 最後は、数年前アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師の『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』(NHK出版)。

 かつてハンセン病根絶を目指して現地に赴いた医師が、なぜ空爆後のアフガンに留まり、病気と干ばつに苦しむ農民たちのため井戸を掘り、水路を掘削し、六十五万人もの命をつないだのか。

 中村医師は、「遭遇する全ての状況が――天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即ち私たちの人生そのものである」と振り返る。

 諍(あらが)いがたい運命を受け入れ、懸命に生きた半生を穏やかに語る彼の眼を通して、天命に従った数多(あまた)の人間たちの真実に向き合わされ、ゴーシュの魂が私たちの内によみがえる。

 

 

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2023年11月14日 (火)

“光明化”について (2023,11)

 都市化と核家族化が進んだ影響で、先祖供養などの伝統的な風習が大きく変化している。

 墓じまいや散骨などについてご相談を頂く場合もあり、そのつど生長の家の教えの光を当ててお答えしているが、先般も大田区で講演した折にも同類の質問をいただいた。

『人生を支配する先祖供養』(谷口雅春著)には、「古神道の一霊四魂(いちれいしこん)の説」が紹介されているが、そこには死後の御霊(みたま)の消息について次のように記している。

「日本の古神道では人間の霊を一霊四魂に分けている。一霊とは実相の霊であり、これを直日霊(なおひのみたま)という。総括総攬(そうかつ そうらん)の純粋霊である。それが奇魂(くしみたま)、和魂(にぎみたま)、幸魂(さちみたま)、荒魂(あらみたま)の四つのはたらきとなって分化する」。

 つまり「直日霊(なおひのみたま)」は、私たちの実相、即ち本体であり、これが次の四つの働きとなって現れているのだ。
 最初の奇魂(くしみたま)は叡智の働き、次の和魂(にぎみたま)は社会や国のために活動する働き、幸魂(さちみたま)は家族を守り導く働き、荒魂(あらみたま)は肉体的な働き。

 そして、私たちの肉体が使命を終えて昇天すると、奇魂(くしみたま)は実相の直日霊(なおひのみたま)に帰り、和魂(にぎみたま)は天界を拠点として活動し、幸魂(さちみたま)は位牌等で家に祀られて家族を守り、荒魂(あらみたま)は墓地に埋葬される。

 かつて宇治別格本山で総務をされていた楠本加美野講師は、「宝蔵神社俸堂(ほうどう)の祝詞」にある「顕幽相携(けんゆうあいたずさ)えて大神の経綸(けいりん)を扶翼(ふよく)する」という言葉に着目して、「霊界の御霊たちと、私たちとが協力して神さまの人類光明化運動を行うこと」と解説されていた。

 先の一霊四魂の説によると、この働きは和魂(にぎみたま)の「天界を拠点として社会国家のために活動する」に該当しそうである。生長の家で宝蔵神社にお祀りした御霊を「霊宮聖使命菩薩」と讃えるのはそのためだろう。

 み教えから四魂の消息を観れば、荒魂は墓地等に葬られて自然界に帰り、幸魂(さちみたま)は家で祀られて家族を守護し、和魂(にぎみたま)は宝蔵神社などの招魂社で祀られて人類救済にあたり、奇魂(くしみたま)は実相そのものとして宇宙全体を生かす。

 一方、私たちの本体、四魂を総括する「実相の霊」である直日霊(なおひのみたま)は、自性円満なる「久遠生き通しの存在」であり、その「実相の霊」が四魂それぞれの聖なる働きとなって神の“光明化”運動を展開しているのだ。

 この“光明化”について『碧巌録(へきがんろく)解釈』後篇(谷口雅春著)には、創世記の「“光あれ”と言い給う“行”によって“光の世界”があらわれた」ように、生長の家では「智慧の“光”をもって」天地の万物の実相を直視するのである。そして人類の意識が「無明の展開」として見ていた現象宇宙を、“神のいのち”の顕れとして根源から「解釈し直す」(絶対感謝する)のである。それが“光明化”の運動であり、日時計主義の生活である。

 したがって日時計主義の生き方は、「外界を感受して善美の世界を創造する」芸術となり、「天地万物を神の実現として聖愛し、礼拝する」宗教となって、神の創り給うた光りの世界を根底から讃えるのだ。

 生長の家が天地一切のものに感謝するのは、「感謝」こそが“光明化”のカギであり、神の真・善・美(実相)を人生の随所で湧出させる聖使命であり、日時計主義の実践だからである。

 

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