言の葉の森から (2023,12)
読書は、私のたましいの糧だ。
通勤電車、自宅やスタバ、眠りにつくまでの寝床。同じ時期にそれぞれの場所に適した本を読んでいる。
仕事がら、講話のテキストを読む時間とのせめぎ合いになる場合が多い。しかし糧は必要だからギリギリまで読んでいると、双方のテーマが深い所で繋がり合ったりするから“言の葉の森”への逍遥(しょうよう)は尽きない。
今回は、自宅や寝床で読めそうな本を紹介したい。
先ずは中村桂子著『老いを愛づる』(中公新書ラクレ)。
中村さんは『いのちの環』七月号にインタビューが掲載された生命誌研究者だ。
かつて八〇年代、『VOICE(ボイス)』(PHP研究所)誌上で科学と文明を結ぶ切り口で彼女がコラムを連載して以来、私はファンになった。
そんな中村さんが八十六歳を迎え、「『老いる』ということを生きることの一場面として捉え、年齢を重ねたがゆえに得られたこと」を綴った、というから見逃せない。
「暮らしやすい社会」を実現するためには、
「『人間は生きものであり、自然の一部』という考え方をすれば暮らし方を変え、二酸化炭素の排出を抑えることができる」と語る科学者の眼差しは、人間のみならず地球生命全体に及んでいる。
次の本は養老孟司さん(八十五歳)と下重暁子さん(八十六歳)の対談『老いてはネコに従え』(宝島社新書)。
共に八十路を越えたお二人は、齢を重ねるにしたがって視野は広がり、逞(たくま)しい着想は現代社会に鋭く切り込む。
たとえば次の対話は次世代への老婆心がつのり、困難な時代を生き抜く智慧がほとばしる。
「養老 このままいくと、アメリカの属国のお次は中国の属国になってしまうかもしれない。だからこそ『それぞれの地域の自立』が大事なんです。支配されたくなければ、地元で自給自足できる社会をつくることですよ。自分たちの周りでしっかりと食べていければ、ほかの国がいくらお金をだそうとも『関係ねえ』って話ですから」。
「下重 うん、それこそ人口なんて少なくていいから、小さな独立国を目指す。地元で自給自足できるコミュニティがいっぱい出来るっていいんじゃないの」。
戦中戦後を見つめてきた者のみが語り得る、美しく豊かに生きぬく智慧が満載だ。
最後は、数年前アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師の『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」』(NHK出版)。
かつてハンセン病根絶を目指して現地に赴いた医師が、なぜ空爆後のアフガンに留まり、病気と干ばつに苦しむ農民たちのため井戸を掘り、水路を掘削し、六十五万人もの命をつないだのか。
中村医師は、「遭遇する全ての状況が――天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即ち私たちの人生そのものである」と振り返る。
諍(あらが)いがたい運命を受け入れ、懸命に生きた半生を穏やかに語る彼の眼を通して、天命に従った数多(あまた)の人間たちの真実に向き合わされ、ゴーシュの魂が私たちの内によみがえる。
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