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2025年8月25日 (月)

味読2025“初秋” (2025,9)

 私が子どものころ、来年九十歳になる母は家で食べる野菜の殆どを家庭菜園で作っていた。

 現在はEM菌を混ぜた生ゴミを堆肥にしているが、六十年ほど前は、びろうな話で恐縮だが“肥だめ“から汲み上げたものを利用していた。

 穀倉地帯のウクライナとロシアで戦争が勃発して以来、世界が深刻な小麦不足に見舞われ、食料価格が一気に高騰した。さらに中国が肥料の輸出制限を行ったことで、世界市場での化学肥料の価格も高騰している。

 そんな折、手にしたのが『ウンコノミクス』山口亮子著(インターナショナル新書)である。同書のタイトルは「ウンコ」に経済を意味する「エコノミクス」を合わせた造語だ。

 かつて江戸時代「金糞(きんぷん)」とも呼ばれ、循環型社会の主役を担っていたウンコだが、今ではトイレから下水道へと流され“見えない世界”へと追い遣られてしまった。が、環境問題が深刻さを増す中で、再び脚光を浴び始めている。

 それは肥料危機のみならず、ビルの熱源、「金(キン)」を生む都市鉱山、さらに自動車やロケットの燃料など、「ウンコ」の持つポテンシャルは計り知れない。地中に張り巡らされた下水道の先で、着々と進行する壮大なプロジェクトを追ったのが本書だ。

 意外なスタートとなったが、今回は皆さんの糧になると思われるご本を紹介したい。

 次は『谷口雅春とその時代』小野泰博著(法蔵館文庫)である。同書は九十年代に出版され、最近文庫本として蘇った生長の家の創始者谷口雅春の評伝である。著者の小野泰博氏(図書館情報大学教授)が六十三歳で早世して未完のままだった草稿を、宗教学者の島薗進氏らがまとめ上げたもので、その功績は大きい。

 生長の家が創始されるまでの時代背景や谷口雅春先生の思索の跡をたどりながら、同時代を生きた真摯な思想家らの哲学、谷口輝子先生へのインタビューなどを通して、生長の家の光明思想の背後にある強靱な生命の哲学が浮き彫りになる。

 すでに『聖道へ』や『生命の實相』「自伝篇」を熟読され、み教えの“深み”を探究される諸氏には、ぜひお目通しいただきたい。監修された島薗氏の解説も秀逸である。

 次に紹介するのは『福岡伸一、西田哲学を読む~生命をめぐる思索の旅』池田善昭・福岡伸一著(小学館新書)である。
「動的平衡」の生命論を鍵に、「生命」の定義を明らかにした科学者・福岡伸一氏と、哲学者・池田善昭氏との対話から、科学・哲学・宗教を統合する“ピュシスの世界観”が見えてくる。

 ピュシス(physis)とは古代ギリシャ哲学で「自然そのもの」を意味する言葉だが、丁寧に味読していると、生長の家で説く「天地(あめつち)を貫きて生くる祖神(みおや)の生命(いのち)」とピュシスとが重なり、西田哲学が他人事でなくなる。

 読者が“思索の旅”の道連れとなり、ピュシス即ち「永遠の今」の哲学を感得するに従って、これまで観ていた世界が変容するだろう。そこから、現代文明の陥穽(かんせい)に墜ちない“生命の智慧”が蘇る。

 

 

 

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